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狼たちに食料を届ける一方で母親にも持ち運んでいたが、衰弱し食事も次第に取れなくなって、朝願望が目覚めた時には冷たくなっていた。
仲間に助けを求めたが誰も手を差し伸べてはくれなかった。数日後に狩りから帰ってきた父親にも、母親が死んだ事をしがみ付いて伝えたが地面に蹴り飛ばされるだけだった。
軽くなった母親の亡骸を背負い、砂漠に沈ませて、ただ一人泣き続ける。
目が赤く腫れた願望がやってきたのを確認した3匹の狼達はそっと寄り添い、陽が落ち、また陽が昇るまでずっと一緒にいたのだった。
母親が死んでからさらに仲間から迫害を受け、毎日絶えず傷を願望は負うようになる。食料を盗んでいた事がバレさらに暴力は悪化した。けれどここで負けて自分が死んでも何も変わらない、それどころか3匹の狼を見捨ててしまうことになってしまう。
生きる為には自分でなんとかしなければならない。
暴力を受ければ反抗し、相手の腕や足に噛み付いた。食料も自分で調達するため、初めは尖った石一つで砂漠を渡り歩いてきた旅人を襲い、武器になるナイフを奪った。
次に3匹の狼にも狩りを教えるため共に砂漠で行動し、旅人を襲ったり又は蠍やトカゲなどを捕まえて食料にした。
そしてあくる日、父親達が狩りという名の強盗をしに集落を出た後、後ろをつけた。
向かい風に舞う砂によって足止めを食らった獲物の前に姿を現し、追い風を味方に金品を、資材を、食料を、命を、奪っていく。初めのうちはその様子をただただ観察した。
風の流れを読むにはどうすればいいのか、
獲物の隙を狙うタイミングは、
確実に仕留められる部位は、一撃は、速さは、
そして願望の目の前に誰のものだったかはわからない吹き飛ばされた剣が突き刺さる。柄を握りズッと引き抜くと、想像していたよりもそれは重たかった。
空を切ると風が鳴く。
得た知識が感覚として記憶していくことに鳥肌が立った。
ふと、父の呻き声が聞こえた気がした。
視線を先に戻すと狙っていた獲物には護衛がついていたのだろう、二匹の銀の生き物が地に伏した父に剣を振り上げていた。仲間達は呆気にとられていて動けないでいる。
そう気づいたときには勝手に体が動いていた。
足元には腕のない銀の生き物の死体が二匹。初めて人を殺めた瞬間だった。
生暖かい液体が目に入って、すこし痛い。ぬるぬると気持ちわるいので顔を拭って、父を見た。
「・・・・・」
父は何も言わなかった。
何かが変わるんじゃないかと、期待もしていた。もしかしたら父が自分を認めてくれるのではないかと思っていた。
けれど、願望がした事は父親の自尊心を傷付けただけだったのだろう。
「ここを出ていけ」
先に集落に戻っていた父親に告げられた一言。さらには剣を喉に突き立てられている。
何故?という言葉が頭の中を占めていくが願望にはその答えが分からない。
どんなに迫害を受けようが、この集落は願望にとっては自分の生まれた場所で、自分の居場所だった。3匹の狼が住むあの廃墟の家で暮らすことも出来たのに、結局戻ってきてしまう程。
「所詮は女、男の上には立てずただ慰め者になっていればよいものを思い上がりおって!お前には何もやるものか、そんな資格はお前には無いと知れ!資格のある者だけが全てを勝ち取るのだから!」
父親の吐き捨てた言葉が突き刺さる。女であることがそんなにも許されない事なのか。資格がなければ何も得られないのか。居場所も、母の愛も、父の心も、生きる意味も、全て。
何もかもが無くなってしまった願望は、廃墟の家へ向かった。そういえば、母が死んだ時にもこうして狼達のところに行ったなと思い出す。ただあの時と違うのは、涙は一滴も出なかった事だ。
少しだけ、あの人の瞳の意味が、わかった気がした。
つづく